群像シミュレーター開発記 その2 水分

充分に複雑な個体としての人間を考えていくのに、まずは基本的な生命維持の仕組みから取り掛かろう。

※書き忘れた便と出血について追加

水分の重要性

水分の摂取は人間にとって、他の栄養素より優先度が高い。 他の栄養素と違ってその貯蓄機構が貧弱であり、ラクダ等のように血液や細胞中への蓄えが利かない。 にも関わらず、人体は充分な水分の存在を前提としており、意外な程小さな不足が大きく機構を乱す。 通常時からたった5%の不足で、意識に強く影響する症状を示し、20%で死ぬ。

水分は体内で非常に多くの役割を担う。 消化吸収の主であり、細胞を支え、化学反応の場となり、熱を循環し、栄養素を運び、老廃物を溶かし込む。 充分な水分があることで、これら全てが円滑に動き、不足はすぐに異常を生む。

水分の供給

経口摂取と吸収

最も大きな供給は、もちろん経口摂取である。 飲み物と呼ばれる多くは水分を主としており、人間の摂食器官は飲むという行為に適している。 口、口腔、気道、食道などの構造により、一度に大量の水分を摂取することも可能で、この点は他の動物に勝る。

飲み物でなくとも、多くの食品には水分が含まれる。 野菜や果物は水分に富み、90%を超える水分量のものもある。 肉や魚であっても調理前には大抵60%を超えており、人によっては、飲むよりも食べることで多くの水分を摂取している。

但し食べる水分は食品中に隠れており、分解しなければ吸収できない。 一方飲む水分は、直接吸収可能であり、より素早い水分の供給が可能である。

飲むまたは食べて経口摂取した水分は、消化吸収用に分泌された多量の水分と一緒に、大半が小腸で吸収される。 小腸での吸収は浸透圧を用いた受動的なものであり、吸収される水分の濃度によって影響を受ける。 大腸では残渣が吸収されるが、多くはない。

小腸からの吸収にかかる時間は液体の濃度で変わってくるが、早ければ30分以内に始まる。 濃度が高ければ多くの時間がかかるが、薄すぎれば体液調整のための排尿につながる場合もある。

呼吸による水分の生産

呼吸によって得た酸素は、細胞での燃焼に使用される。 燃焼の酸化過程では水分が生じ、この水分は代謝水などと呼ばれている。

代謝水は1日で200ml前後あり、個々の細胞では微量だが、重要な水分供給源となっている。

水分の排出

人体にとって水分は、小さな不足の影響を受けるほど重要でありながら、生命の維持にその排出が不可欠である。

尿

人体という機構で発生する有害な物質の内、血液を介するものは、主に尿として排出される。 腎障害等で正常な尿への廃棄が行われない場合、排出されるべき物質は血液その他に残り尿毒症を起こす。

尿という形での有害物質の廃棄は生命の維持に欠かせず、多少の水分不足では、尿の量は大きく減らない。 発生する廃棄物を問題なく排出するには、1日に最低でも400mlの尿が必要となる。

便

小腸で水分の大半を吸収され、大腸で残りも吸収された飲食物の残渣は、大便として直腸に送られる。 それでも最終的に排出される大便に水分は残っており、平均すれば1日に100ml程度は排出されるようである。

なお、小腸・大腸での水分吸収になんらかの以上があると、大便は多くの水分を残したまま、下痢として排出される。 下痢の水分には消化吸収用に分泌されたものも含むため、経口摂取した直接の水分よりも多くの水分が失われる可能性がある。

ここでいう汗は、後述の不感蒸泄とは区別し、有感蒸泄を指す。

発汗は、体温の上昇及び精神性の刺激によって引き起こされる。 皮膚の汗腺を通じて、血液中から水分を抽出した液体が分泌される。 ただし多量の発汗時など、他の成分の除去が間に合わない場合、汗には塩化ナトリウムなどを含まれる。

体温上昇による発汗は、体温が低下するまで続くため、気温が高いなど外的要因によっては長時間続く。 気温だけでなく湿度が高ければ、汗の蒸発が抑えられ蒸発熱が減るため、体温の低下につながらず発汗が続く。 この発汗は全身の皮膚で起こる。

精神性の刺激による発汗は、主に興奮や緊張によって引き起こされ、手や足、脇などの部位に集中する。 刺激の原因が取り除かれれば速やかに発汗は停止するが、長時間刺激が続けば、発汗量もかなりの量になる。

発汗量は人体の置かれた状況や刺激にかなり左右されるが、多ければ数千mlを超えるため、必要な水分に大きな影響を与える。

不感蒸泄

呼気、また皮膚からの意識されない水分の排出。

これらは有感蒸泄と違って制御しにくく、生きている限り続く。 呼吸を穏やかにするなどの調整は不可能ではないが、蒸泄量の大きな低下は難しい。

呼気の水分は粘膜を保護する。 また呼吸器から侵入する微細な異物を防ぐ役割もある。

体表面の皮膚は不感蒸泄をもたらす発汗によって、常に湿っている。 これにより皮膚はしなやかさを保ち、鋭敏な感覚も維持される。

これら不感蒸泄によって、平均的には1日900mlの水分が失われる。

出血

血液は90%前後が水分であり、出血はそのまま水分の排出としても考えられる。 出血では血液そのものの減少が最大の問題だが、水分量の低下の一因として認識する必要がある。

女性の場合、経血としての出血もあるが、半量が血液で残りが内膜等の残渣と浸出液、としか分からない。 いずれにせよ経血の量や内容は個人差も大きいため、モデル化にはより調査が必要。